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マンション関連のニュースマンション大規模修繕の談合で公取委が42社の違反を認定 ― 住民の負担を増やした仕組みと、私たちにできること
2026年9月28日、公正取引委員会(以下「公取委」)は、関東地方のマンションの大規模修繕工事をめぐる談合について、設計コンサルタント会社2社と修繕工事会社40社、あわせて42社の独占禁止法違反を認定し、排除措置命令と総額約16億円の課徴金納付命令を出しました。
談合が認定された工事は171件。公取委が公表した排除措置命令書には、対象となった工事の名称(マンション名)まで一覧で記載されています。
この事件の一番の問題は、管理組合の味方であるはずの設計コンサルが、裏で工事会社と手を組んでいたことです。そのツケを払わされたのは、修繕積立金を負担している住民(区分所有者)の皆さんでした。
この記事では、公取委・国土交通省が公表した資料と法令の条文をもとに、談合の仕組み、関係する法律の条文とその意味、そして住民が自分たちのお金と資産を守るために何ができるのかを、ファイナンシャルプランナーの立場から詳しくお伝えします。少し長くなりますが、マンションにお住まいの方には、ぜひ最後までお読みいただきたい内容です。
1. 何があったのか ― 公取委の発表のポイント
公取委の発表(2026年9月28日)の要点は、次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象の工事 | 関東地区(東京・神奈川・埼玉・千葉・茨城・栃木・群馬)のマンションの管理組合が、設計コンサル業者2社のいずれかに「設計コンサル業務」を委託したうえで発注した大規模修繕工事 |
| 違反の内容 | 独占禁止法第3条(不当な取引制限の禁止)違反。工事ごとに受注する会社(受注予定者)を事前に決め、その会社が受注できるように協力していた |
| 違反の期間 | 遅くとも2021年(令和3年)9月27日(もう1社のコンサルの関係は同年11月16日)から、公取委の立入検査が入った2025年(令和7年)3月4日まで |
| 違反事業者 | 延べ57社(実数42社)。設計コンサル2社と、修繕工事を請け負う施工業者40社 |
| 排除措置命令 | 延べ51社(実数38社) |
| 課徴金納付命令 | 延べ50社(実数37社)、総額16億3,788万円(2027年4月30日までに納付) |
| 談合が認定された工事 | 171件(排除措置命令書の別表4に記載された工事。設計コンサル1社の関係が95件、もう1社の関係が76件。工事の契約日は2022年2月〜2025年2月) |
出典:公正取引委員会「関東地区所在のマンションの管理組合が設計コンサル業者に委託して発注する大規模修繕工事の施工業者らに対する排除措置命令及び課徴金納付命令等について」(令和8年9月28日)、同 別表1・別表2、排除措置命令書(令和8年(措)第3号・第4号)
違反事業者の中には、マンションの管理を受託している管理会社や、そのグループの修繕会社なども含まれていました。具体的な会社名や対象のマンション名は、公取委のホームページで公表されています。ご自身のマンションが対象かどうか気になる方は、記事の最後にある参考資料のリンクからご確認ください。
2. 談合はどのように行われていたのか
「設計監理方式」の信頼を逆手にとった仕組み
大規模修繕工事では、管理組合が設計コンサルタントに建物の劣化診断や工事の設計、施工会社選びのお手伝い、工事の監理などを任せる「設計監理方式」が広く使われています。専門知識をもつ第三者が管理組合の側に立ち、公平に施工会社を選ぶことで、適正な価格と品質を確保する――それが本来の目的です。
ところが今回の事件では、その設計コンサルが工事会社の側に立っていました。公取委が認定した手口は、次のようなものです。
- 受注予定者を決める:工事の発注情報を設計コンサルから入手した施工業者が「この工事を取りたい」と設計コンサルに伝え、協力関係を結んだ会社が「受注予定者」になる
- 見積価格を決める:受注予定者は設計コンサルと協議するなどして、見積り合わせに参加する各社が管理組合に出す見積価格を決める
- ほかの会社は「当て馬」になる:受注予定者以外の会社は、頼まれたとおりの(受注予定者より高い)見積価格を出すか、そもそも見積り合わせに参加しない
- 設計コンサルが情報を流す:設計コンサルは、管理組合が決めた工事の発注予定金額(「設計予算」)などの情報を受注予定者に伝え、受注予定者の意向を踏まえて業務を行う
つまり管理組合から見ると、複数の会社から見積りを取って比べ、きちんと競争させて選んだつもりでいても、実は最初から「勝つ会社」と「だいたいの金額」が決まっていたということです。公取委は、対象となった工事の大部分が、この違反行為によって受注されていたと認定しています。
受注額の5%が設計コンサルへ
見返りもありました。公取委の排除措置命令書によると、工事を受注した施工業者は、原則として工事請負契約の金額の5%を目安とする金額を、設計コンサルに支払っていたと認定されています。管理組合から設計コンサル料を受け取りながら、工事会社からも「手数料」を受け取っていたわけです。
公取委は、この手数料の支払いについて、設計コンサルから施工業者へ提供される情報の内容などによっては施工業者間の自由な競争をゆがめるおそれがあるとして、設計コンサルや施工業者の業界3団体に、会員への周知などを申し入れています。
管理会社のかかわりについて
今回、受注予定者を決め、情報を流すという中心的な役割を担っていたと認定されたのは設計コンサルです。一方で、違反事業者の一覧(別表1・別表2)を見ると、マンションの管理を受託している管理会社や、その系列の修繕会社も施工業者として名を連ねています。ふだん建物の管理を任せている会社のグループが、大規模修繕工事では受注する側にもなる、ということです。
管理会社や設計コンサルは、管理組合にとって頼りになる存在です。しかし、どちらも「工事を発注する側」ではなく、工事に関わることで利益を得る立場にもなりうる――この構造を、住民の側がきちんと理解しておくことが大切です。
3. 住民の負担はどれだけ増えたのか
談合でつり上がった工事費は、管理組合の修繕積立金から支払われます。修繕積立金は、住民一人ひとりが毎月積み立てている、いわばみんなの財布です。
個々のマンションでいくら高くなったのかは、公取委の資料には示されていません。そこで、公取委が認定した受注額の5%という「手数料」の部分だけで、どのくらいの負担になるのかを試算してみます。
試算:100戸のマンションで工事費3億円の場合
- 工事費の5%=1,500万円
- 1戸あたり=15万円
これは手数料の部分だけの計算です(金額は説明のための仮の例です)。見積り合わせで本当の競争が働かなかった分の上乗せを考えると、住民の負担増はさらに大きかった可能性があります。
ファイナンシャルプランナーとしてお伝えしたいのは、工事費の上乗せは「一度払って終わり」ではないということです。積立金が不足すれば、積立金の値上げ、一時金の徴収、金融機関からの借入れのいずれかで穴埋めすることになります。借入れなら利息もかかります。そして次の大規模修繕の資金計画にも影響し、マンションの資産価値や売りやすさにも響きかねません。
大規模修繕の費用は、資材価格や人件費の上昇もあって、ただでさえ重い負担になっています。そこへ不当な上乗せまで払わされていたとすれば、住民にとっては二重の痛手です。
4. 条文で読む ― なぜ「違法」なのか
ここからは、今回の処分の根拠となった法律の条文を見ていきます。条文は公取委の公表資料(参照条文)と、デジタル庁の法令検索サイト「e-Gov法令検索」によります。
(1)「不当な取引制限」とは ― 独占禁止法第2条第6項
私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(独占禁止法) 第2条第6項
この法律において「不当な取引制限」とは、事業者が、契約、協定その他何らの名義をもつてするかを問わず、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう。
【解説】いわゆる「カルテル」や「談合」を定義した条文です。ポイントは次の3つです。
- 「何らの名義をもつてするかを問わず」:契約書のような正式な取り決めがなくても、暗黙の了解や口約束でも該当します。今回も「受注協力関係」という事実上の合意が認定されました。
- 「相互にその事業活動を拘束し」:本来はそれぞれが自由に決めるべき見積価格や、見積りに参加するかどうかを、お互いに縛り合うことです。
- 「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」:今回は「その設計コンサルが関わる大規模修繕工事」という取引の場で、施工業者どうしの競争がほとんど働かない状態にしていた、と認定されました。
なお、今回の特徴は、国や自治体の公共工事ではなく、民間の管理組合が発注する工事で談合が認定されたことです。独占禁止法は、発注者が民間であっても当然に適用されます。
(2)談合の禁止 ― 独占禁止法第3条
独占禁止法 第3条
事業者は、私的独占又は不当な取引制限をしてはならない。
【解説】今回の違反の根拠となった条文です。注目していただきたいのは、工事を請け負う施工業者だけでなく、設計コンサルも「違反事業者」として認定された点です。設計コンサルは工事そのものを請け負うわけではありませんが、受注予定者を決め、情報を流すことで談合の中心的な役割を担っていたため、「共同して」競争を制限した当事者とされました。
(3)排除措置命令 ― 独占禁止法第7条第2項
独占禁止法 第7条第2項(抄)
公正取引委員会は、第三条又は前条の規定に違反する行為が既になくなつている場合においても、特に必要があると認めるときは、(中略)次に掲げる者に対し、当該行為が既になくなつている旨の周知措置その他当該行為が排除されたことを確保するために必要な措置を命ずることができる。ただし、当該行為がなくなつた日から七年を経過したときは、この限りでない。
一 当該行為をした事業者
【解説】談合は2025年3月の立入検査をきっかけにすでに取りやめられていましたが、公取委は「違反行為が長期間にわたって行われていたこと等」を考慮して、特に必要があると判断し、排除措置命令を出しました。命令の内容は、取締役会で「もうやっていない」「今後もしない」ことを決議すること、その内容を対象工事を発注した管理組合に通知すること、社員への周知や独占禁止法の研修を行うこと、などです。
排除措置命令書には、通知先となる管理組合が発注した工事が「別表4」として工事名つきで一覧になっており、通知や社員への周知の方法も、あらかじめ公取委の承認を受けなければならないとされています。対象のマンション名が公表資料に載っているのは、このためです。なお、今回の処分は受注の決め方(競争の制限)を問題にしたもので、工事の品質を問題にしたものではありません。
(4)課徴金 ― 独占禁止法第7条の2
独占禁止法 第7条の2第1項(抄)
事業者が、不当な取引制限(中略)であつて、商品若しくは役務の対価に係るもの(中略)をしたときは、公正取引委員会は、(中略)当該事業者に対し、第一号から第三号までに掲げる額の合計額に百分の十を乗じて得た額及び第四号に掲げる額の合算額に相当する額の課徴金を国庫に納付することを命じなければならない。ただし、その額が百万円未満であるときは、その納付を命ずることができない。
【解説】課徴金は、談合の対象になった売上げ(今回は工事の受注額)に、原則10%(中小企業は4%)をかけて計算されます。「命じなければならない」とあるとおり、要件を満たせば必ず課される仕組みです。
一方で、公取委の別表を見ると、設計コンサル2社の課徴金額の欄は「−」で、課徴金は課されていません。課徴金は談合の対象になった商品・サービス(今回は大規模修繕工事)の売上額をもとに計算する仕組みのため、工事を受注していない設計コンサルには課徴金がかからなかったものと考えられます。工事会社から受け取った「手数料」を考えると、住民感情としては納得しにくい部分かもしれません。
また、違反を自ら公取委に申告した会社には、課徴金を減らしたり免除したりする「課徴金減免制度」(第7条の4)と、調査への協力の度合いに応じて減額する「調査協力減算制度」(第7条の5)があります。今回も、最初に申告した1社は課徴金と排除措置命令の両方を免れ、ほかにも減額を受けた会社が複数あります。
5. 被害を受けた管理組合・住民は何ができるのか
「余分に払わされたお金は戻ってこないのか」――住民の方がいちばん気になるのは、ここだと思います。法律上は、損害賠償を求める道があります。
(1)独占禁止法にもとづく損害賠償 ― 第25条・第26条
独占禁止法 第25条(抄)
第三条(中略)の規定に違反する行為をした事業者(中略)は、被害者に対し、損害賠償の責めに任ずる。
2 事業者及び事業者団体は、故意又は過失がなかつたことを証明して、前項に規定する責任を免れることができない。
独占禁止法 第26条(抄)
前条の規定による損害賠償の請求権は、第四十九条に規定する排除措置命令(中略)が確定した後でなければ、裁判上主張することができない。
2 前項の請求権は、同項の排除措置命令又は納付命令が確定した日から三年を経過したときは、時効によつて消滅する。
【解説】第25条は、違反した事業者が「わざとではなかった」「不注意ではなかった」と証明しても責任を免れない、いわゆる無過失損害賠償責任を定めています。被害者にとって有利な規定です。ただし第26条により、この請求は排除措置命令が確定してからでないと裁判で主張できず、確定から3年で時効にかかります。命令に不服のある会社は取消訴訟を起こせるため、確定の時期は会社ごとに異なる可能性があります。
(2)民法にもとづく損害賠償 ― 第709条・第724条
民法 第709条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
民法 第724条
不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。
二 不法行為の時から二十年間行使しないとき。
【解説】民法の不法行為として損害賠償を求めることもできます。こちらは命令の確定を待つ必要はありませんが、相手の故意・過失や損害の額を、請求する側が主張・立証しなければなりません。また、損害と加害者を知った時から3年という時効にも注意が必要です。今回、対象のマンション名が公表されたことで「知った時」が早まる可能性もありますので、対象となった管理組合は早めに専門家に相談しておくのが安心です。
どちらの方法でも、裁判では「談合がなければいくらで契約できたのか(適正な価格)」と実際の契約額との差が争点になると考えられます。損害額の立証は簡単ではありませんので、請求するかどうかを含め、弁護士に相談しながら進めることになります。
(3)誰が請求するのか ― 区分所有法第26条
建物の区分所有等に関する法律(区分所有法) 第26条(抄)
2 管理者は、その職務(中略)共用部分等について生じた損害賠償金及び不当利得による返還金(中略)の請求及び受領を含む。(中略))に関し、区分所有者(中略)を代理する。
4 管理者は、規約又は集会の決議により、その職務に関し、区分所有者のために、原告又は被告となることができる。
【解説】大規模修繕工事は共用部分の工事ですので、損害賠償を求める場合は、管理組合の理事長(管理者)が区分所有者を代理して請求し、規約や総会の決議があれば、理事長が原告となって裁判を起こすこともできます。逆にいえば、住民が総会で声を上げ、決議をしなければ、管理組合として動き出すことはできません。
6. 国も動き出しています
以前から指摘されていた「利益相反」
実は、設計コンサルの問題は今回初めて指摘されたわけではありません。国土交通省は2017年(平成29年)1月の通知で、施工会社からバックマージンを受け取り、自社にマージンを払う会社が受注できるよう不適切な工作をする設計コンサルの存在を指摘し、管理組合に注意を呼びかけていました。その前年に改正された「マンションの管理の適正化に関する指針」にも、次の一文が加えられています。
マンションの管理の適正化に関する指針(発注等の適正化)より
工事の発注等については、利益相反等に注意して、適正に行われる必要がある
注意喚起から約10年。それでも、こうした談合が続いていたという事実は重く受け止める必要があります。
2026年9月28日 国土交通省の通知
今回の処分と同じ日、国土交通省は関係団体を通じて、管理組合に向けた通知を出しました。主な内容は次のとおりです。
- 相談窓口の活用:(公財)住宅リフォーム・紛争処理支援センター(住まいるダイヤル。見積りの無料チェックサービスもあり)、(公財)マンション管理センター
- 専門家の活用:マンション管理士や建築士などの外部専門家に協力を求めること。自治体によっては専門家の派遣制度もある
- 設計コンサルの中立性の確保:設計・監理方式を採用する場合は、受注予定者や受注金額の事前調整がないよう注意し、適正な手続きで受注者を選ぶこと
- 談合違約金特約条項:談合が認められた場合に受注者が違約金を支払う義務を、工事請負契約に明記できること(2025年6月26日付の国土交通省事務連絡で周知済み)
公取委が示した「漏れてはいけない情報」
公取委は、施工業者から設計コンサルへの手数料の支払いが競争をゆがめるおそれがあるとして、業界3団体に注意を申し入れました。その資料では、施工業者に漏れると競争がゆがむおそれのある情報として、次のようなものが挙げられています。
- 管理組合が設定した工事の発注予定金額
- 管理組合が設定した発注先を選ぶ際の具体的な基準
- 見積り合わせに参加する施工業者名
- 見積り合わせに参加するほかの施工業者の見積価格
裏を返せば、これらは管理組合が「外に出さない」と意識して管理すべき情報だということです。
7. マンションの住民にできること ― 「お任せ」から「参加」へ
法律も「管理組合の一員」としての役割を求めています
区分所有法 第3条(抄)
区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体を構成し、この法律の定めるところにより、集会を開き、規約を定め、及び管理者を置くことができる。
マンションの管理の適正化の推進に関する法律(マンション管理適正化法) 第5条
管理組合は、マンション管理適正化指針(中略)の定めるところに留意して、マンションを適正に管理するよう自ら努めるとともに、国及び地方公共団体が講ずるマンションの管理の適正化の推進に関する施策に協力するよう努めなければならない。
2 マンションの区分所有者等は、マンションの管理に関し、管理組合の一員としての役割を適切に果たすよう努めなければならない。
【解説】区分所有法第3条により、区分所有者は全員が当然に管理組合の構成員になります。「入る・入らない」を選べるものではありません。そしてマンション管理適正化法第5条第2項は、区分所有者に「管理組合の一員としての役割を適切に果たすよう努めなければならない」と定めています。努力義務ではありますが、マンションの管理は「管理会社や理事会にお任せ」ではなく、住民一人ひとりの役割だということを、法律がはっきり示しているのです。
区分所有法 第18条第1項・第39条第1項
(第18条第1項)共用部分の管理に関する事項は、前条の場合を除いて、集会の決議で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。
(第39条第1項)集会の議事は、この法律又は規約に別段の定めがない限り、出席した区分所有者(議決権を有しないものを除く。)及びその議決権の各過半数で決する。
【解説】一般的な大規模修繕工事(建物の形や働きを大きく変えないもの)は、原則として総会(集会)の普通決議で決まります。2026年4月に施行された改正区分所有法により、普通決議は「出席した区分所有者とその議決権の過半数」で決まるルールになりました。総会に出席しない人は、決定に加わらないまま、その結果だけを負担することになります。数億円の工事の行方を、ごく一部の人だけで決めてしまうことにもなりかねません。
今日からできる7つのこと
住民(区分所有者)としてできること
- 総会に出席する。出られないときは議決権行使書を出す:議案書の工事金額・業者選定の経緯に目を通し、疑問は質問する
- 修繕委員会や理事会に参加する:専門知識がなくても、「なぜこの会社なのか」「なぜこの金額なのか」と問う人がいるだけで、緊張感が生まれます
- 長期修繕計画と修繕積立金を自分で確認する:次の大規模修繕はいつか、いくらかかる見込みか、積立金は足りているか
管理組合(理事会)としてできること
- 設計コンサルの選び方を見直す:報酬が極端に安いコンサルには注意。施工業者から手数料などを受け取らないこと、利害関係がないことを契約書や誓約書で確認する
- 見積り合わせの条件を必要以上に絞らない:参加条件が特定の会社に有利になっていないか、理事会自身がチェックする
- 発注予定金額などの情報を外に出さない:公取委が示した4つの情報は、理事会の中でも取り扱いに注意する
- 工事請負契約に「談合違約金特約」を入れる:国土交通省が示しているひな形を参考に。迷ったら住まいるダイヤルの見積チェックや、マンション管理士・建築士など外部の専門家に相談する
もしご自身のマンションが今回の対象だった場合は、排除措置命令にもとづき、違反事業者から管理組合に通知が届くことになっています。理事会で情報を共有し、弁護士などの専門家に相談したうえで、損害賠償を求めるかどうかを総会で話し合うことになるでしょう。時効の問題もありますので、早めの対応をおすすめします。
8. 「管理会社」にも注意が必要です
※この節は、筆者(ファイナンシャルプランナー 菊池)の私見です。
高齢化が進み、管理組合の運営を担う人材がいないマンションが増えています。今後は、管理会社が管理者を兼ね、理事会を設けずに管理会社が管理者として管理組合を運営していく形が、さらに増えていくと、私は予想しています。そうなれば、あらゆる場面で、区分所有者の代わりに管理会社が対応することになるでしょう。
今回の談合は、設計コンサルが中心とされました。しかし私は、管理会社のほうが、談合を仕切る立場になりやすいと考えています。設計コンサルの候補選びすら、管理会社が行っていることがあるのではないでしょうか。大規模修繕工事の談合については、設計コンサルだけでなく、管理会社にも注意が必要です。
法律も、管理会社が管理者を兼ねる場合の利益相反を意識しています。
マンション管理適正化法 第77条の2(利益相反のおそれがある場合のマンションの区分所有者等への事前説明)
マンション管理業者(管理事務の委託を受けた管理組合の管理者等であるものに限る。)は、自己又は人的関係、資本関係その他の関係において当該マンション管理業者と密接な関係を有する者として国土交通省令で定める者との間における取引を行うとき(管理受託契約又は管理者受託契約を締結しようとするときを除く。)は、あらかじめ、国土交通省令で定めるところにより説明会を開催し、当該管理組合を構成するマンションの区分所有者等に対し、当該取引につき重要な事実として国土交通省令で定める事項を説明しなければならない。(ただし書略)
【解説】管理会社が管理者になっている管理組合で、管理会社が自社やグループ会社などと取引をする場合(たとえば、グループの修繕会社に大規模修繕工事を発注する場合)には、事前に説明会を開いて、区分所有者に重要な事実を説明しなければならない、という規定です。ただし、これは説明を義務づけるもので、取引そのものを禁止するものではありません。説明を聞いて、その取引でよいのかを判断するのは、区分所有者自身です。
だからこそ、これからのマンションでは、区分所有者が自ら設計コンサルや工事会社の候補を見つけ、交渉できることが求められます。国土交通省は外部の専門家の活用を呼びかけていますが、専門家に任せきりにするのではなく、あくまでも区分所有者が中心となり、誰かに誘導されることなく判断していく能力が問われている――私はそう考えています。
9. 関西・神戸のマンションも他人事ではありません
今回の処分は関東のマンションが対象でしたが、2026年7月28日には、今回とは別の大規模修繕コンサルティング会社が、名古屋支店に公取委の立入検査を受けたことを自社のホームページで公表しています。また、今回処分を受けた会社の中には、大阪市や広島市、高松市などに本店を置く会社も含まれています。
関西や神戸で同じことが起きていると決めつけることはできませんが、「設計コンサルが間に入っているから安心」「管理会社に任せているから大丈夫」とは言えないということは、今回の事件がはっきり示しました。マンションの数が増え、築年数の古いマンションも増え続けるなか、大規模修繕工事の需要はこれからも高まります。だからこそ、発注する側である管理組合と住民が、しっかりと目を光らせる必要があるのです。
まとめ
- 2026年9月、公取委はマンション大規模修繕工事の談合で42社の違反を認定。対象工事は171件、課徴金は総額約16億円
- 管理組合の味方であるはずの設計コンサルが受注予定者を決め、発注予定金額などの情報を流し、受注額の5%を目安とする手数料を受け取っていた
- そのツケは修繕積立金を通じて住民が負担した。積立金の値上げ・一時金・借入れなど、影響は将来にわたる
- 被害を受けた管理組合は、独占禁止法第25条や民法第709条にもとづく損害賠償を検討できる。時効に注意し、早めに専門家へ相談を
- 区分所有者は全員が管理組合の一員。総会への出席、議案のチェック、修繕委員会への参加など、「お任せ」から「参加」へ
- (筆者の私見)管理会社が管理者を兼ねるマンションが増えれば、管理会社にも注意が必要。区分所有者が自ら候補を探し、交渉し、誘導されずに判断する力が問われる
修繕積立金は、皆さんの大切な資産であるマンションを守るためのお金です。そのお金の使い道に関心を持ち、管理組合の運営に少しずつでも関わっていくことが、自分たちの暮らしと資産を守るいちばん確かな方法だと、私は考えています。
参考資料
- 公正取引委員会「(令和8年9月28日)関東地区所在のマンションの管理組合が設計コンサル業者に委託して発注する大規模修繕工事の施工業者らに対する排除措置命令及び課徴金納付命令等について」(別表・排除措置命令書・参照条文・別添3「大規模修繕工事の施工業者から設計コンサル業者に対して支払う手数料等について」を含む)
https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2026/sep/260928_daiyon.manshon.html - 国土交通省「マンション大規模修繕工事の発注等に関する相談窓口の周知等について」(令和8年9月28日)
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000197.html - 国土交通省「設計コンサルタントを活用したマンション大規模修繕工事の発注等の相談窓口の周知について(通知)」(平成29年1月27日)
https://www.mlit.go.jp/common/001230147.pdf - e-Gov法令検索:独占禁止法/区分所有法/マンション管理適正化法/民法
※この記事は、2026年10月31日時点で公表されている公的資料と法令をもとに作成しています。立入検査の件は、検査を受けた会社の自社発表(2026年7月28日)によります。個別のマンションの状況や損害賠償の可否については、弁護士などの専門家にご相談ください。